Bye Bye Moore

PoCソルジャーな零細事業主が作業メモを残すブログ

【読書メモ】21世紀東南アジアの強権政治--ストロングマン時代の到来

トランプ元大統領の当選から、いわゆる良心的人々から民主主義の危機が強く叫ばれる様になった印象があります。
それは東南アジアでも例外ではなく、目につきやすいところではフィリピンのデゥテルテ大統領などがいます。

本書の取り扱い範囲はフィリピン、マレーシア、タイと事例は複数国ありますが、一貫しているのは「良識的」市民の苛立ちを突いて得票数を稼いでいるところ。

東南アジアのお国事情として、かつての開発独裁時代と同様に身内贔屓と蓄財もやっぱりあるようです。
この辺りは一族同族の助け合い文化がまだ強いことの影響も大いにあるので欧米的価値観での断罪はフェアじゃないように思いますが……。

この本の中で実際認められているように、東南アジアにおいてもストロングマンは都市部の中産階級から人気がなく、一方その恩恵を受けた地方の「良心的」市民からは逆に称賛されている傾向があります。
この辺りはトランプ支持者の実情とも繋がりますね。
ただ、フィリピンの事例はアメリカより苛烈です。
ある事例では新人民軍が地元を暴力を伴って実行支配していたところ、デゥテルテ政権になってから警察が治安に本腰を入れて救われたという話が載っています。
地元の人が言うには、都市エリートばかりのデゥテルテ批判者は我らの土地の惨状を知らないから好き勝手言っているのだというインタビューが載っています。

民主主義が進めば汚職問題は徐々に解決し幸福度は上がるという「信仰」が人文畑の人にはあったそうですが……民主主義の優等生枠フィンランドかて汚職や醜聞が聞かれる位ですから、あまりに楽観的だったと言わざるを得ないでしょう。

まぁ……一連のストロングマン志向は結局のところ、経済の勢いで誤魔化していた中産階級エゴが精算されるタイミングになったという事なんじゃないかな……と感じています。
経済成長の原動力である資本流動性の実務を担うのが中産階級なら、その皺寄せをモロに食らうのが一次原料の製造元であり労働力を供給する地方(または隣国)なわけですから、搾取側の勢いが落ちれば不満は表面化するでしょう。

人類史が無事続けばどこかのタイミングで理想の民主主義路線に回帰する事もあるでしょうが、今世紀の国民国家はズルズルと専制志向を強めていくんじゃないかなと……。
そうなった時に、案外都市国家国民国家の間にある周縁社会が重要な役割を担う日も来るんじゃないでしょうか。